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オバマ大統領の8年

 いよいよオバマ大統領が任期満了で退任し、トランプ氏がアメリカの大統領に就任する日が来た。去っていく人が常に惜しまれるわけではない。けれども、オバマ大統領は惜しまれる人の一人になった。

 自分にとって、ブッシュ前大統領の八年間は悪夢のようだった。別にブッシュさんが何か悪いことをしたわけではなかったけれども、その前のクリントン政権時代に高いレベルで維持された世界平和と空前の繁栄が、ブッシュ氏の就任した年に発生した9・11テロによって目に見える形で音を立てて崩れ去ってしまった。対テロ戦争として始められたアフガニスタン、イラクでの戦争が終わった後もテロは一向に収まらず、連日のように爆弾を使ったテロが行われて多くの人が犠牲になった。

 私は、9・11テロの直後に発表されたブッシュ大統領の声明を覚えている。それは、テロは高層ビルを破壊することはできてもアメリカの基幹となる自由や民主主義を破壊することはできない、と述べたものだった。あれほどひどい攻撃を受けても、これだけのことを言える大国の主に私は深い感銘を受けたものだった。けれども、あのときの感動は、アブグレイブ刑務所で発覚した捕虜虐待事件をもって完全に消えた。結局、9・11テロは、イスラム原理主義のテロリスト容疑者相手ならば人権など無視して拷問してもいいという説明不可能な思想がまかり通るのを許容する力を生むほどに、言い換えれば、アメリカが大切に育ててきたデュー・プロセスや法の下の平等、人種差別の撤廃という思想を否定するほどに、強力なものだった。ブッシュ政権下のアメリカは、ビンラディンのテロに負けてしまったのだ。

 アフガン戦争に続けて行われたイラク戦争は、戦争の口実となった大量破壊兵器を発見できず、多くの犠牲をイラク国民に強いたのに開戦の正当性を証明できなかったというひどい結果を生んだ。退任間際の2008年にはリーマンショックで経済も破たんし、イラクで行った記者会見では現地の記者から靴を投げられるほどに権威も失墜する何もかもダメな大統領として消えていった。

 そういう絶望的な流れで終始したブッシュ大統領の治世の後に現れたオバマ大統領が就任したときのことを思い出すと感慨深いものがある。彼は、世界の期待の象徴だった。ブッシュでないこと、それだけが重要だった。就任直後、なんの実績もないのにいきなりノーベル平和賞が授与されたのも、ブッシュではないことだけが理由だった。

 だから、オバマ大統領に対してもとめられていた最大のことは、ブッシュ政権によってなし崩し的に壊されたアメリカの基礎を取り戻すことだったと思う。もちろん、経済の立て直しやアメリカの覇権をより強固にすることなども大事だが、それらに匹敵するくらい重要なこととしてアメリカの基礎の取り戻しという課題が課せられていた。

 オバマ大統領の8年間の評価をめぐってはいろんな意見があると思うけれども、彼は自由と民主主義を国の柱とする大国の主としてふさわしい人だったと思う。言葉は慎重に考え抜かれた名言が多く、そのうえ機知にとんだユーモアがうまかった。決断力はあまりないほうだったけれども、軽率な決断を迅速にし続けた政権の後ではそれも強みだった。彼の8年間を経て、ふたたびアメリカは世界から信用されるリーダーの地位を回復した。


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by binwa | 2017-01-20 23:52 |  ┣ 政治 | Trackback | Comments(0)

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