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塩野七生『ローマ人の物語 (3)~(5) ハンニバル戦記 上中下 』(新潮文庫)

    

 地中海の制海権を巡って、ローマとカルタゴが激しく争った時代の物語。上巻では、第1次ポエニ戦役とその後のことが扱われていて、カルタゴがシチリアに持っていた権益をどのようにして失い、ローマがどのようにして地中海に覇権を唱えたかが分かりやすく描かれている。 この時代、シチリアをめぐる抗争が絶えなかったことは世界史で習った。しかし、どのような背後関係があって、どのような規模の抗争が行われたのかは聴いたことがなかった。本書は、シチリア勢力分布図を何度も示し、ある場所を確保することがローマやカルタゴにとってどのような意味があるのかを分かりやすく説明してくれている。とても細かなところまで目が行き届いているのがこの本の特徴だと思う。印象に残ったのは、ローマ軍の宿営地建設のマニュアル化の徹底ぶりだった。
 「ローマ人には、マニュアル化する理由があったのだ。指揮官から兵から、毎年変るのである。誰がやっても同じ結果を生むためには、細部まで細かく決めておく必要があった。」


 地中海の覇権を失ったカルタゴは、スペインへと支配地域を広げていった。スペイン進出を主唱し実行したのは、第一次ポエニ戦役のカルタゴ側の英雄ハミニカル。ハンニバルの父であった。 スペインの支配を安定させたハンニバルは、ピレネー山脈を越え、ローヌ河を渡り、アルプスを越えてイタリアに侵攻した。中巻は、ハンニバル戦記と呼ばれる第二次ポエニ戦役を扱うものである。

 稀代の戦術家といわれるハンニバルは、戦略にも長けていたようだ。彼の戦術・戦略のために、ローマは連戦連敗を重ね、ローマ連合を構成する都市国家の離反すら招いてしまう。 そのような非常事態にローマ人がどのように立ち向かったか。なぜ、ハンニバルはイタリアでの優勢を保てなかったのか。どうしてカルタゴはハンニバルを孤立させてしまったのか。そんなことに思いを馳せながら無我夢中で読んでいたら、あっという間に読み終わってしまった。

 依然としてイタリアにとどまるハンニバルをイタリアから追い出すために、スキピオはカルタゴの本拠を襲う。スペインを平定したスキピオ・アフリカヌスの進撃に恐れをなしたカルタゴはハンニバルに帰国を命じる。ハンニバル戦記と言われる第二次ポエニ戦役も、ザマの会戦をもって終わる。 下巻は、ローマ人による第二次ポエニ戦役の戦後処理と、その後に生じたギリシアの混乱、マケドニアとカルタゴの滅亡までが描かれている。

 燃え盛るカルタゴを見つめながらスキピオ・エミリアヌスが言った「だが、この今、わたしの胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかわがローマも、これと同じときを迎えるであろうというという哀感なのだ」という言葉は、とても示唆的で胸に染みていった。
by binwa | 2008-02-02 05:45 | ┣ 歴史

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