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呉茂一『ギリシア神話(上・下)』(新潮社)

呉茂一『ギリシア神話(上巻)』
呉茂一『ギリシア神話(下巻)』

 わたしの個人的なギリシア神話受容史については以前この日記に記したとおりだが、実に10年以上の期間を空けて呉先生のギリシア神話を読み返した。相変わらず人名や地名に辟易したものの、忘れていたり、話の内容を混乱して理解していた物語を思い出すことができた。年末年始に実に意味のある読書をしたと思う。

 この上下二巻からなる書物は、必ずしも上巻の冒頭から読めば良いという性質の本ではない。学者が一般向けに書いた本であるとはいえ、基本的には研究書のようなスタイルで表されていて、上巻は「総論」、下巻は「各論」と名付けてもよさそうである。次の三点を指摘しておきたい。

 第一に、上巻は抽象度が高い記述が多く、ある程度ギリシア神話について理解があることを前提とした内容となっている。ギリシア神話について何も知らない人やあまり詳しくない人が先にこれを読んでも、色々な伝説が少しずつ引用された上で検討していく叙述の真意を理解できない恐れがある。一方、ある程度ギリシア神話の内容を知っている者であれば、ギリシア神話の成立過程や背景、異聞との関係などを知ることによって神話の理解を一層深めるのに役立つ。

 第二に、具体的な神話の内容は、下巻にまとまっている。下巻の内容はそれ自体で完結していて、上巻を読んでなければ読めない内容とはなっていないので、ギリシア神話そのものを知りたい人はまずこっちを先に読んで理解を深めたほうが良いかもしれない。下巻から読み始める際であっても、上巻が引用されている個所は上巻を参照したほうがいいかもしれない。

 第三に、この上下二巻は要点を非常にコンパクトにまとめた内容となっているので、ギリシア神話が読み手に感じさせる何とも言えない詩情や哀切さなどを犠牲にしている面がある。こんなことまで、この種の書物に求めるのは過重な要求なので、そうしたものを味わいたい人は、端的に『イーリアス』や『オデュッセイア』などの訳本を読むべきだろう。

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by binwa | 2010-01-04 01:34 |  ┗ 文学

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